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着替えている間も、その後も、ずっと気分は落ち込んだままだった。私はトントンさんのことを好ましく思っている、はずだ。その反面、私はトントンさんのことを恐ろしくも思っている。確かに脅されたし、このバイトを始めてから怖い目に沢山遭っている。けれどそれに見合った報酬は貰っているし、私はこのバイトを気に入っている。でもトントンさんを前にすると妙に緊張してしまうのだ。上司だからとか、怖い顔だからとかとはまた別な理由の気もする。
いや、こんなことを考えていても仕方のないことだ。どうせ辞めるのだし。
「浮かない顔やん」
考えごとをしていたせいで、目の前にくるまで大先生の存在に気がつかなかった。
「悩み事？」
「はい？」
「ああ、申し遅れたわ。僕はウツ。ウツさんって呼んでな」
「ウツさん……」
「トントンに呼んでこい言われてん」
「えっ。すぐ行きます」
「まってまって。ちょっとお喋りしようや」
慌てて店頭に向かおうとする私をウツさんが引き止めた。なんだろう、と怪訝な顔でウツさんを振り返る。
「眉間、ごっつ皺よってたで。悩んでることがあるんやったらさっさと人に話した方が楽やで」
「……話しても仕方のない事なので」
「いやいや。言葉にするだけでも大分ちゃうよ。僕、人の相談に乗る仕事してるから何かアドバイスもできるかもしれんし」
真っ直ぐに私を見据えるウツさんの真摯な眼差しに負けて、トントンさんのことを怖く思ってしまうことを話した。ウツさんはうーんと腕組みをしながら首を捻った。そして、私のことを真面目な顔で見つめて、
「それって恋ちゃう？」
と言った。
「……こい？」
「うん。恋やね」
思わず絶句する私をお構いなしに、ウツさんは続けた。
「だって、一緒にいると緊張してドキドキすんねやろ？ 恋やん」
「いやでも怖いからドキドキするのもありますよね」
「だから怖いねんやろ。トントンに嫌われるんが」
先ほどまで必死に否定していたくせに、ウツさんのその言葉であっさりと腑に落ちた。確かに、そう考えると矛盾をはらんだ自分の感情にも合点がいく。全てがうまく噛み合ったような感覚に胸のもやが晴れていった。のも束の間、更なる問題が目の前に立ちはだかる。
「バイト辞めたくないです！ ウツさんどうしましょう……！」
「そんなん辞めたくないですーってトントンに可愛くおねだりしたらええんちゃう」
「そ、そんな簡単にいきますかね」
「いけるやろ」
「本当ですか？」
「うん。いけるいける」
それでも不安げな私にウツさんが「僕の方がトントンのこと知っとるから。大丈夫やって」と言ったので、とりあえずその言葉を信じることにした。
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田中(プロフ) - 前々から気になっており、やっと今日読みました。素敵すぎました (10月19日 4時) (
レス) @page32 id: d6054e066b (このIDを非表示/違反報告)
凄惨ペロ(プロフ) - miiさん» コメントありがとうございます！拙作へのお褒めの言葉、とても嬉しいです。名残惜しいと言って頂けて、書いた甲斐があったと思えました。本当にありがとうござました。 (6月15日 20時) (レス) id: 7f89f8c794 (このIDを非表示/違反報告)
凄惨ペロ(プロフ) - 桜華さん» コメントありがとうございます。こうして無事に完結できたのは評価やお気に入りをしてくださった皆さんのおかげです。楽しんで貰えたならそれ以上に喜ばしいことはありません。本当にありがとうございました！ (6月15日 20時) (レス) id: 7f89f8c794 (このIDを非表示/違反報告)
mii(プロフ) - コメント失礼します。完結おめでとうございます！関連作ランキングから見始めたのですが、タイトルから滲み出る不穏さと、リアルでありながら綺麗に可愛らしく描かれた心情が、とても好きでした。名残惜しいですが、素敵なお話をありがとうございました。 (6月12日 3時) (レス) @page31 id: 2d3cfb07c5 (このIDを非表示/違反報告)
桜華(プロフ) - コメント失礼いたします！完結おめでとうございます。かわいいお名前に惹かれて読みに来たら、まさかのお肉屋さんでびっくりです！！しかし、多彩な文書によって最後までとても楽しく閲覧させていただきました。素敵な物語をありがとうございます！！ (6月11日 23時) (レス) @page31 id: 1bda5ccdb4 (このIDを非表示/違反報告)
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